服屋に入っても、まず何を見ればいいのか分からない。店員に声をかけられても、何を頼めばいいのか分からない。試着室のカーテンを開けても、似合っているのかどうか分からない。
分からないが三つそろうと、人は服屋から静かに出ていきます。
服に詳しくないことは隠さなくていいです。年齢、着ていく場面、予算。この三つを伝えて、試着した姿を店員に見てもらえばいいんです。これだけなら知識はなくても問題ないですよね。
ただし、勧められたものを全部買う必要もありません。店員に頼ることと、全部任せることは違います。私はその加減が分からず、ずいぶんとお金も時間も費やしました。

服屋の店員さんって、何を話せばいいんですか。「こいつ分かってないな」って思われそうで。

思われていいよ。分かってない客の相手をするのが、向こうの仕事だから。

それ、励ましてます?

励ましてる。声をかけられたら何を返すか、試着で何を見てもらうか、どうやって手ぶらで帰るか。今回はこの三つだけ押さえればいい。
相談したのに、着ない服が一万円分増えた
昔、服を何とかしようと思い、友人に相談しました。今思えば、その友人も特別おしゃれだったわけではありません。でも、当時の私は相談相手の選び方すら知りませんでした。自分より服を知っていそうなら、その時点で先生です。
連れていってもらったのは、数百円から千円台で服が買えてしまう、かなり安いファストファッションの店でした。その店が悪いという話ではありません。当時の私は欲しい服を説明できず、何が自分に合うかも判断できなかったので、店内をぐるぐる回っても、これだと思えるものは見つかりませんでした。
それでも、相談に乗ってもらった手前、何も買わずに帰るとは言えない。結局、一万円ほど使いました。数百円から千円台の服で一万円です。なかなかの大きさの袋になります。
でも、ほとんど着ませんでした。
私の服を買いに行ったはずが、友人の方が満足し、一万円分の微妙な服の山ができました。
後日、今度は一人で古着屋へ行きました。古着屋なら、何か格好いいものが見つかる気がしたんです。ところが、店を変えても、選ぶ人間は変わっていません。するとどうなったか。目立たず失敗しにくそうな色ばかり手に取り、気づけば茶色い服だらけ。
選択肢は広がったのに、色の範囲は狭まりました。

足りなかったのは、服の候補ではなく、選ぶ基準でした。
声をかけられたら、年齢・用途・予算を返す
前の記事「おしゃれが苦手な男へ。最初は靴一足と店員任せでOK」では、人見知りは店員から声をかけてもらうのを待っていい、最初の一歩は靴一足でいい、と書きました。ここは変わりません。

でも、そもそも服屋に入るのがキツいんですよ。入った瞬間「いらっしゃいませ」って、全員こっち見るじゃないですか。

見てない。あれは条件反射で言ってるだけだ。

それでも足が止まるんです。

なら、靴下を買いに来たことにして気を楽にしたらいい。店員が声をかけてきたら、そこからが本番だ。
店に入れたら、次の問題は声をかけられたあとです。「何かお探しですか?」に、反射で「あ、大丈夫です」と返してしまう。人見知りの身体は、放っておくと勝手に店を出る準備を始めます。
だから、返す言葉を先に決めておきます。自分の年齢、着ていく場面、使える予算。この三つです。
店員にこう伝える
「30代です。友人と遊びや食事へ行くときに使える、着回しやすいパンツを探しています。予算は二万円までです」
これで十分です。
一式そろえる予算があるなら、上下をまとめて相談するのも手です。ただ、最初から一式でなくても問題ありません。靴の次はパンツ一着、そのパンツを履いて次はシャツ。これなら、買い足すたびに組み合わせが増えていきます。
ちなみに、10分うろうろしても誰も声をかけてこない店もあります。そのときは、その店とは縁がなかったということで次へ。待つのは人見知りの権利ですが、待ちぼうけまで付き合う義理はありません。
試着では、格好よさより先に丈と動きやすさを見る
試着は面倒でも必要です。特に見てもらいたいのは、丈と全体の収まりです。
私の職場では、みんなが同じ制服を着ています。それでもなぜか格好よく着こなせてしまう人と野暮ったく見える人がいる。体型や姿勢の違いもありますが、それよりも私は丈の影響が大きいと思っています。
パンツの裾が短すぎて靴下がしっかり見えている人を見ると、「足がめちゃくちゃ長いのか、お下がりなのか……。なぜ気にならないのか……」と考えてしまいます。同じ服でも、丈が違えばもはや別の服です。

鏡の前では、正面だけでなく横と後ろも見ます。腕を上げる。しゃがむ。でもきっと見ても判断できませんよね。分かります。私がそうだったので。
なので「丈はこれで合っていますか」と店員に聞いちゃいましょう。自分で正解を当てにいくより、ずっと早いです。
私は以前、勧められたデニムが細すぎると感じて、「これはちょっと無理かもしれません」と伝えました。店員さんは「履くうちになじんで、違和感なくなりますよ。むしろ病みつきになると思います!」と教えてくれました。試してみると本当になじんで、好きなサイズ感になりました。最初の違和感だけで断っていたら、出会えなかった一本です。
ただし、何でも我慢すればなじむわけではありません。痛い、息苦しい、動きにくいなら、その場で伝えていい。「見慣れない」のか「着にくい」のか。それを分けるために、第三者の目を借りるんです。
信用する店員は、商品の弱点も話してくれる
では、どの店員を信用するか。
一つは、自分の店の商品でも欠点を話してくれる人です。手入れが必要、手持ちの服には合わせにくい、使える季節が短い。売る側がそこまで話してくれるなら、あとはこちらで判断できます。
予算を伝えたら、ちゃんとその中で出してくる人も信用できます。二万円と言ったのに三万円のジャケットを持ってくる人は、こちらの話より、自分の売上の話をしています。
それから、試着室から出たときに、褒める前に直す人。裾を折ってみる、ひとつ上のサイズを持ってくる。「お似合いです」より先に手が動く人は、ちゃんとこちらを見てくれています。
店員の服装を格好いいと思えるかも参考になります。私自身、信用した決め手を突き詰めると「その人が格好よかったから」だった気がします。選ぶ基準としてはかなり雑です。ただ、店員は流行に寄った服を着ていることも多いので、自分と年齢や雰囲気が近い人のほうが参考にしやすいと思いますよ。
相談しても、買わずに帰っていい
相談に乗ってもらったからといって、必ず買う必要はありません。予算に合わない。試着してもしっくりこない。それなら見送っていいんです。
とはいえ、すぐには「買いません」の一言が出ませんよね。私も最初の店では友人に悪いと思い、断れずに一万円分買いました。だから、帰る言葉も先に決めておきます。
「もうちょっと考えます」
これで十分です。言ったあとに本当に考えるかどうかは、自由です。
店員に頼ることと、財布まで預けることは別です。
その日に何も買わなくても、自分に合う丈が一つ分かれば、行った意味はあります。服より先に、基準を一つ持ち帰ってください。
デートの予定ができたときに、着ていく服で慌てなくて済む。それだけでも行く価値はあります。

で、結局何を買えばいいんですか?

それを店員に聞きに行くんだろ。

……そうでした。
今日からやること
① 今日はいているパンツを、鏡でしっかり見てみる
② 次の休みに行けそうな服屋を、一つだけ決めておく
③ 「もうちょっと考えます」を、一回声に出して言ってみる


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